労災事故に遭った場合の注意点
まず最初に労災事故に遭った場合の注意点についてご説明致します。
誤った判断をされている方が非常に多いことから最初にお読み下さい。
労災事故に遭った場合、労災保険が適用されることは皆様もご存知だと思います。
しかしながら、労災事故に遭った方や遺族が受け取ることが出来るお金は、労災保険からの給付が全てではありません。
労災保険から支給されるのは、賠償金の一部のみであり、慰謝料等は含まれていません。
したがって、ご家族が労災事故で亡くなられた場合、労災保険から支給されたもの以外に慰謝料等を会社や会社が加入する保険会社等に請求する必要があります。
ところが、労災保険からの給付が全てであると誤解され、会社に対する請求を行わない方が非常に多い印象です。
また、会社の担当者も、労災事故の補償は、労災保険から全てなされると誤解していることが多く、労災保険の手続を行ったので、会社としてはやるべきことは全てしたといった対応をすることが少なくありません。
なお、労災事故がご自身の不注意によって発生した場合においても会社が全く責任を負わないことの方が少ないことから、労災事故に遭った場合には、必ず専門家に相談することをお勧めします。
労災事故でご家族が死亡した場合どうすべき?
労災事故によりご家族が死亡した場合、残された遺族はどのような補償を受けることができるのでしょうか。
遺族は労災保険に保険金の請求を行うことに加えて、会社に対して損害賠償請求することが考えられます。
そこで、労災事故でご家族が死亡した場合に、遺族がどのような手続きを行うべきかについて解説します。
労災保険の申請方法と給付内容
業務中の事故でご家族が死亡した場合、残された遺族は、まず最初に労災保険の申請を行うことが考えられます。
労災保険は、労災事故で被災した労働者に対して補償を行う制度ですが、被災した労働者が死亡した場合には、残された遺族が、労災保険を利用することによって、一定の補償を受けることができます。
なお、業務中の事故のみならず、通勤途中の交通事故等に対しても労災保険が適用されます。
労災保険の申請方法
業務中の事故でご家族が死亡した場合、労災保険の請求人は遺族となります。
遺族の方は、亡くなられた労働者の勤務先を管轄する労基署に、労災請求用紙と添付書類を提出し労災保険の申請を行って下さい。
申請に必要な書類は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
労災で死亡した場合の給付一覧
労働者が労災事故で死亡した場合、遺族は、①遺族(補償)給付、②葬祭料(葬祭給付) を受けることができます。
なお、労働者が亡くなられるまでの間に、治療や休業を要した場合には、療養(補償)給付や休業(補償)給付などを受け取ることができますが、本解説では遺族給付と葬祭料に絞って解説します。
遺族(補償)給付
労働者が労災事故で死亡した場合に遺族が受け取ることができる遺族(補償)給付は、①毎年支払われる年金と②1回の支払でなされる一時金との2種類があります。
①の年金は、以下の要件を全て満たす遺族に限って受け取ることが出来ます。
ア.被災労働者が死亡した当時、その収入によって生計を維持していたこと
イ.被災労働者の配偶者・子・父母・孫・祖父母または兄妹姉妹であること
ウ. (妻以外は)年齢要件を満たしていること
①年金の受給要件を満たす遺族がいない場合には、②一時金を受け取る仕組みとなっています。
遺族が年金を受け取る場合の給付について
①年金の受給要件を満たす遺族がいる場合には、以下の年金等の給付を受けることが出来ます。
遺族が年金等の給付を受け取る場合、遺族は、①遺族(補償)年金、②遺族特別年金の2種類の年金に加えて、一時金として支払われる③遺族特別支給金の3種類の給付を受けることになります。
①遺族(補償)年金・②遺族特別年金の計算方法
①遺族(補償)年金、②遺族特別年金の2種類の年金の金額の計算方法はいずれも同一で、年金の金額は受給資格がある遺族の数に応じて変わります。
遺族の数が1人の場合 給付基礎日額の153日分
遺族の数が2人の場合 給付基礎日額の201日分
遺族の数が3人の場合 給付基礎日額の223日分
遺族の数が4人以上の場合 給付基礎日額の245日分
給付基礎日額とは?
給付基礎日額とは、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。
平均賃金とは、原則として、事故が発生した日(賃金締切日が定められているときは、その直前の賃金締切日)の直前3か月間にその労働者に対して支払われた金額の総額を、その期間の歴日数で割った、一日当たりの賃金額のことです。
(具体的な計算方法)
仮に、月20万円の賃金を受けており、賃金締切日が毎月末日で、事故が10月に発生した場合
20万円×3か月÷92日(7月:31日、8月:31日、9月:30日)
≒6521円73銭となります。(なお、給付基礎日額に1円未満の端数がある場合は、これを1円に切り上げます。)
遺族(補償)年金の前払い
遺族(補償)年金は、1回に限って前払いで給付を受けとることができます。
前払いで年金を受け取る場合、前払一時金の金額は、以下から選ぶことができます。
なお、前払一時金を受け取った場合、受け取った金額に達するまで間、年金の支給が停止されます。
給付基礎日額200日分
給付基礎日額400日分
給付基礎日額600日分
給付基礎日額800日分
給付基礎日額1000日分
遺族特別支給金の金額
遺族の数にかかわらず、一律300万円が支給されます。
遺族が一時金を受け取る場合の支給について
①の年金の受給要件を満たす遺族がいない場合には、以下の一時金が支払われます。
遺族(補償)一時金
遺族(補償)一時金は、給付基礎日額の1000日分が支給されます。
もっとも、他の遺族が、遺族(補償)年金や遺族(補償)年金の前払金をすでに受け取っている場合は、その支給済金額が給付基礎日額の1000日分から差し引かれます。
遺族特別一時金
遺族特別一時金は、算定基礎日額の1000日分が支給されます。
もっとも、他の遺族が、遺族(補償)年金や遺族(補償)年金の前払金をすでに受け取っている場合は、その支給済金額が算定基礎日額の1000日分から差し引かれます。
遺族特別支給金の金額
遺族の数にかかわらず、一律300万円が支給されます。
一時金を受け取るための受給資格
遺族補償のうち、年金を受け取る権利のある遺族がいない場合、その他の遺族に対して、遺族(補償) 一時金・遺族特別支給金・遺族特別一時金が支給されますが、その他の遺族といえる受給資格は以下の通りです。
1.配偶者
2.労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた子
3.労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた父母
4.労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた孫
5.労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた祖父母
6.その他の子
7.その他の父母
8.その他の孫
9.その他の祖父母
10.兄弟姉妹
以上のうち、最先順位者が受給資格のあるものとみなされます。
葬祭料(葬祭給付)の金額
葬祭料(葬祭給付)として支給される金額は、(1)給付基礎日額の60日分と(2)給付基礎日額30日分に31万5000円を加えた額のいずれか高い方です。
(1) 給付基礎日額の60日分
(2) 給付基礎日額の30日分に31万5000円を加えた額
葬祭料(葬祭給付)の受給対象者は、遺族のみに限られておらず、会社や友人などが葬儀費用を支出した場合には、会社や友人に支給される仕組みとなっています。
労災就学等援護費の金額
労災保険には、保険給付の他にも遺族の援護などを目的とした社会復帰促進事業を行っています。
その一環として、労災就学等援護費というものがあります。
労災就学等援護費は、労災事故で親を亡くした子どもたちが、学業を放棄したり、進学をあきらめたりしないように援護する目的として支給されます。
保育園・幼稚園 1万3000円
小学校 1万4000円
中学校 1万8000円
高校等 1万7000円
大学等 3万9000円
受給にあたっては、在学証明書などの書類が必要になります。
また、給付基礎日額が1万6000円を超える場合、労災就学等援護費を受給することはできませんので、注意してください。
会社等に対する損害賠償請求
労災保険による補償は、支給額が給付基礎日額全額ではなく、また慰謝料等が補償の対象外になっていないことから、十分な補償とはいえません。
そのため、遺族が適切な補償を受けるためには、労災保険の申請を行った後に、会社等に対して損害賠償請求をする必要があります。
会社等は、労働者を安全な環境で働かせる義務を負っていますので、労働者に一定の過失がある場合にも、遺族は会社等の責任を追及出来る場合が少なくありません。
労働者側にも過失があることを理由に安易に諦めないように注意して下さい。
例えば、高所での作業を命じる場合には、
転落を防止するため、作業床を設ける、安全帯を着用させるなどの措置を講じる義務も負っています。
また、安定した足場を設置したり、十分な照度を確保する義務を負っています。
したがって、会社等が、こられの義務を怠ったといえる場合には、労働者側に過失があったとしても、会社等に責任が生じるのです。
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労災保険の制度が複雑であり、また、会社等への協力が必要な場合も少なくないことから、労災事故でご家族を亡くされた直後の遺族が手続を行うことは難しいと思います。
大阪鶴見法律事務所は、労災事故でご家族を亡くされた方の味方になりますので、お気軽にご相談ください。
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